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【若手医師の提言】動画は今や医師とは切っても切れないものとなった

まず自己紹介からさせて頂くと、私は現在医師3年目の救急医・集中治療医で、救急では年間10000台の救急車が搬送される3次救急の現場で働いている。

今回の記事では、自分の学生時代、研修医時代含め現在に至るまでに、まだ経験が浅いなりに、浅いなりの若手医師としての視点で動画・映像の導入で医療現場において変化した事を考察していきたいと思う。

既に医療現場で動画の恩恵を受けている部分に関して、真っ先に頭に思い浮かぶのは『教育』の側面だと感じる。動画と医療教育の関連に関しては、自分の大学生時代に遡る。

医師がインターネット動画で講義を受講するのはすでに当たり前だった

私大学6年生であった2016年には、医師国家試験の勉強の際に既に『ネット講座』なる物が存在し、現役医師がオンラインで各分野に関する講義を行い、それを殆どの医学生が受講する状態になっていた。(ちなみに現在の国家試験対策のネット講座に関して調べてみた所、私の受講していたネット講座の講師が会社から独立してyoutuberになっていた。話は変わるが、最近は徐々に医師のyoutuberという存在が増えてきており、今後存在感が増していきそうな予感を感じる。)

どんな地域に在住していてもインターネット環境さえあれば簡単にアクセスできるのが動画の強みであり、大学によって違いはあるものの国家試験に対して講義を行うなどの対策を全くしていない大学もある中で、ネット講座の出現によって教育の質の均質化がなされたと思う。

2017年に医師になってからも引き続き動画を利用する場面は多かった。

特に自分は研修医時代手技の習得に苦労したが、その際も動画に助けてもらった。初めて行う手技の際には、勿論上級医の監督のもと行うのだが、その前に現場で使う手技に関しての指導動画を確認し、予習してから実際の手技を習得する事があった。

本でコマ切りの画像を載せられても理解しにくい部分があった手技を、動画の登場で一気に理解しやすいものとなった印象がある。ましてや医療現場での手技は対人間で行うものであり、早期の習熟が求められる。

適切な教育者がいる現場ばかりではないので、こういった動画は非常に医療全体に貢献している側面があると常日頃から感じている。専門医試験でのネット講座も普及してきており、もはや動画教育は若手臨床医とは切り離せないものになりつつある。

一方でベテラン臨床医にとって映像・動画はどうなのか?

実際の臨床の現場というのはいわゆる一般的な治療方針とは別に、病院毎に共通認識として医者同士がお互い仕事をしやすくする為の『ローカル・ルール』的なものが存在する。こうした『ローカル・ルール』がまかり通るようになればなるほど、各病院で治療内容に差が生じてくる。

もし医師が知識をアップデートしていないと治療が時代錯誤なものになってしまう恐れがある。こういった傾向はベテラン臨床医に見られる傾向が強い。そういった意味で、ベテラン臨床医にとっても動画の普及は医療の質の均質化に寄与しうるだろう。

なかなか数10年のキャリアを経て再度勉強するのは骨の折れる作業だろうと想像できる為、動画のデバイスを用いて少し受動的な形式で知識を得る方がベテラン臨床医にとって良い気もする。

特に開業すると、勤務医時代と比較し新しい情報がより入って来にくくなる傾向にある。開業医は基本的には頼れるのは自分しかおらず、一人で患者の治療方針を決めていく。

多くの医者は市中病院で研鑽し、自分一人である程度診断・治療ができるという自信があるからこそ開業するのだが、開業して5年、10年経つうちにも医療業界ではすさまじいスピードで新しい薬が生まれ、日進月歩で進化していく一方従来の治療が『時代遅れ』のものとされてしまう。

開業医は専門医を維持する為の単位獲得の為に学会に参加するくらいで、勤務医時代のように治療方針について会議で他の医者と議論したり、悩んだりする場面は少なくなってくる。

勿論自己研鑽して知識をアップデートしている開業医も多く存在するが、自分が勤務医として働いている中で開業医からの紹介状等を確認する際、患者の内服薬や治療方針を見て首を傾げる場面も少なくない。

これは開業医の批判ではない。ただ、動画が年配医師や開業医に需要されるのか?

自分のように医療現場の最前線で、複数の医者と仕事をしていれば最新の知識に触れる機会が多く、開業医のようにガラパゴス化した環境で仕事をしていれば誰しも気づかない内に日本標準、世界標準からかけ離れていきやすいという医者の能力は環境に依存しやすい事実に言及したいだけである。

自分が将来開業医となって、経営の事から資格の維持から忙しい中で知識をアップデートするモチベーションを保てる保証などどこにもない。

そんな時、動画のレクチャーなど開業医に寄り添ってあげられるデバイスが存在する事は、日本の医療レベルを大きく底上げするきっかけになるかもしれない。

問題点としては、『動画』という新しい情報伝達ツールが年配の医師達に受容されるかどうかが挙げられる。よりシンプルな形式で、若手からベテランまでに活用される動画教育体系が確立されると良いのだが。

動画コンテンツによる『患者教育』は大きく進んだ

一方、自分の知る限り『患者教育』においても動画は少しずつ浸透してきている印象がある。例えば、糖尿病のコントロールが思わしくない患者に対して、糖尿病に関する知識、生活習慣の改善の必要性を理解してもらう際に1週間くらい教育入院してもらう事がある。

この際には毎回決まった動画を30分程度視聴してもらい、病状の理解に努めて頂く。この方式では、映像で理解度が上がるのは勿論、医師の負担軽減にも繋がる

いくら説明が必要だとはいえ、同じ説明を何度も繰り返すのは疲労を伴うものである。人間同士のコミュニケーションは勿論必須だが、代替できる部分は代替していきたい。今後はこういった手法がより現場に浸透していくと患者にとっても、医師にとっても利益があるだろう。

医師の説明を聞いただけでは忘れる。動画で繰り返し視聴することで病状を理解し回復も早まる。

例えば患者に対する医者の病状説明を行った後に。その病気に関して説明がある動画のURLを渡し、家で視聴してもらうといった手法も良いだろう。

一過性の医師からの病状説明では、忘れてしまったり、聞き逃したりする事がるだろうから、より病気に関する理解を深める為に動画の併用が望ましい。

患者も、もしかしたら一生付き合っていく事になるかもしれない自身の病気においてできる限りの知識を獲得しておきたい人は多いだろうし、お持ち帰り動画の需要はあるのではないかと愚考する。加えて情報の信憑性という視点からも、医師から情報提供する事である程度担保される。

医師の説明が不十分なのか?乖離したネット情報で患者が踊らされ不安になっていることも。

自分の受け持ちの患者で、自分がAという病気に関して提供した情報と、患者自身がネットで検索した情報について乖離があったようで、ひどく不安にさせてしまった経験をした。

最近はgoogleなどネットの検索エンジンの進歩により、医学情報などに関してはできるだけ信憑性の高い情報が上位に表示されるようになっているようだが、依然そういったネット情報に踊らされ不安になっている患者には定期的に出会う。

医師の口から出る説明に加えて、形として確かな解説動画を持ち帰る事ができれば、闇雲にネットで情報を探す患者を減らせるかもしれない。

この視点でいうと単に病気の説明が書かれた冊子で十分で、動画で無くても良いのではないかという意見も出そうだが、患者の理解力には大きな個人差があり、文章と絵だけ全ての患者を理解させるのは難しい。

無論動画にしても伝わらない患者も存在するだろうが、より視覚に訴えかける動画という媒体の方が、病気を理解できない患者に理解してもらい、ある程度理解している患者の理解を深められる可能性は大きく上がるだろう。

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