統合失調症は、患者さんのご家族がその症状を理解するのが難しい病気の代表格なのではないでしょうか?見た目にはあまり変化がないということもありますし、その症状について言葉で説明されてもわかりづらいところがありますよね。
しかし、治療を進めていく上では、家族のサポートは欠かせないもの。だから、しっかりと病気について理解していかないといけません。そんなときに役立つのが、映像なのです。実際、統合失調症について家族をはじめとする多くの人に理解してもらうため、映像を活用しているという例が見られます。
目次
①いろいろな映像手法で統合失調症を体験する
統合失調症というものを理解してもらうために一番手っ取り早いのは、自分がその症状を疑似体験することなのではないでしょうか?どんなことでも、人から伝え聞いただけでは理解しきれないものですが、実際に自分が体験してしまえばあっさりと理解できることもあります。
だからといってご家族まで統合失調症になるわけにもいきません。ではどうすればいいのか。そんな時にピッタリなのが「映像」を活用することでしょう。映像を用いることで、統合失調症を疑似体験することが出来るようになったのです。
一例として挙げられるのは、ドラマを見るという例。統合失調症の人を主役に据えたドラマを見るのです。そうすることによって、実際に統合失調症の人がどうなっていくのかということをリアルに見ることが可能になります。それも一つの疑似体験と言えます。
ただそれだと、人によってはシンプルに作品を楽しんでしまうだけで、あまり統合失調症についてのことが頭に入ってこないということもあるでしょう。そこで最近見られるようになってきているのが、VR映像の活用です。
VR映像用のゴーグルやヘッドセットで、視覚や聴覚を奪うことが出来ます。だから、視覚や聴覚を利用して、幻聴をきこえさせたり、視界をぐにゃぐにゃさせたりするなど、ドラマ仕立てよりもリアルに自分が統合失調症になったかのような体験をすることが可能。そんな風にリアルに体験することが出来れば、多くの人が統合失調症についてしっかりと理解できるでしょう。
他にもアニメーションを用いて説明しているというような例も見られます。実にいろいろな手法で、統合失調症というものを理解してもらおうと努力している病院も多いのです。
②製薬メーカーでの統合失調症への映像活用例
ある製薬会社では、まさに統合失調症への理解を深めるためにVR映像が活用されています。ヘッドセットとアプリによる簡易的なものではありますが、180度しっかりと映像はついてきますし、装着したヘッドセットから4つのジャンルの幻聴が聞こえてくるようになっているといいます。
一つは「嘲笑や命令する声」、一つは「これから自分はどんな風に行動するのかという予言のような声」、さらには「生活音が幻聴のように聞こえるというような体験」や、「やたらと自分をほめてくるような音声」などが終始聞こえてきます。
それを体験することで、より深く統合失調症を理解できるようになっていくのです。
③統合失調症の理解に映像を用いることのメリット
統合失調症というものがどういうものかということを映像を用いて理解することには、一つの大きなメリットがあります。それはやはり「リアルに疑似体験できる」という点。
統合失調症がどういうものかを疑似体験することは、統合失調症患者を持つご家族が、統合失調症患者に対して適切な理解をできるようになるというだけではなく、万が一そのご家族自身が統合失調症になってしまった時にも効果を発揮してくれます。
統合失調症は、誰がいつなるかわからないものです。患者さんのご家族だって、いつかかってしまうかはわかりません。もし全く予備知識がない状態で、統合失調症の患者さんを抱えるご家族が、自分自身も統合失調症になってしまったら、家庭内はもう手が付けられないくらいに大変になるでしょう。でももしご家族に統合失調症に対しての正しい理解があればどうでしょうか?疑似体験の時のような体験が実際に襲ってきただけだと分かれば、いざ幻聴が聞こえてきたとしても、すぐに病院に行く等、冷静に対処できるようになる可能性が高まります。
疑似体験なしで知識として持っているだけだと、どうしてもそんな風に冷静に対応するのは難しいものです。でもしっかりと疑似体験できていれば、冷静に行動できる可能性もぐっと上がります。
患者さんに対しての適切なサポートを促すという意味だけではなく、ご家族自身を守るという意味でも、統合失調症の理解に映像を用いて疑似体験をするというのはすごく効果的なことです。
④統合失調症では治療にも映像が活用されている
統合失調症に関しては、映像が活用されているのは、何も近くの人がそれを理解しようとする時だけではありません。リアルに疑似体験できるというのは間違いなく効果的ですし、理解のために映像が用いられることは多くなってきていますが、それだけではなく、実際に治療法として映像が用いられているという例もあるんです。
2016年頃イギリスの大学で、統合失調症の妄想に対してVR映像を使って治療をしようという研究が始められたといいます。
統合失調症の患者さんが特に「怖い」と感じるようなシーンをVRで作り出して、その中で「あまり怖いと思うことはしないような守りの行動」をするという指示と、「積極的に行動を起こす攻めの行動」をするという指示をだします。守りの行動をするというチームがしていることは、現実世界の中で統合失調症の患者さんがしている行動と変わりはあまりないでしょう。でも攻めの行動をするチームは、現実世界では怖くてできないような行動を、VR世界の中でしていくことになります。
守りと攻めの行動を何度も繰り返して、「自分たちが妄想しているような怖いことは起こらない」ということを学んでもらおうとしていたのです。
実際にその研究の中では、「攻め」の行動を指示されたチームのうち50パーセントという多くの人で、重たい妄想症状が消えていったと言います。まさしくVR映像が統合失調症の改善に力を発揮したのです。
またこの研究では、実は「守り」の行動を指示されたチームの人でも、20パーセントの人に症状の改善が見られたと言います。守りの行動をする中でも、しっかりとこの世界の安全さを理解できたのでしょう。その理解度は攻めの行動をしたチームの方が上ではありましたが、人によってはVR内でも守りの行動しかできない人もいるのではないでしょうか?そういう人にとっても効果を発揮できたというのは大きいですよね。
⑤まずは理解しやすい方法で理解することから
このように、統合失調症の治療のために映像が用いられているということもありますが、実際に日本でそれが一般化するまでにはまだまだ時間はかかるでしょう。少しずつ医療全体で、映像を活用するということに対しての幅が広がってきてはいますが、まだまだ活用していないところも多いです。
今できることはやはり、映像を用いて統合失調症の疑似体験をして、統合失調症とはどういうものなのかということをしっかりと理解することでしょう。